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2011年3月の東日本大震災では、宮城県や岩手県を中心に多くの犠牲者が出た。震災後に避難生活を余儀なくされた人びとには、急激な生活習慣の変化により、大きな心理的ストレスがかかる。そのストレスが健康状態にも悪影響を及ぼすことは、多くの研究によって示されている通りである。

震災後「歯の痛み」が悪化

歯科医療の領域においても、震災後の避難生活によって口腔内環境が悪化することが研究により明らかにされている。

岡山大学歯学部の坪井綾香氏らは、震災後に「歯の痛み」が強くなりやすいというユニークな研究成果を日本公衆衛生学会(2017年)で報告した。

この研究は福島第一原子力発電所の避難区域に居住しており、福島県民健康調査を受診した73,433名を対象に行われた。精神的な不調、震災に対するトラウマ反応、避難生活での運動習慣、飲酒・喫煙の習慣、失業の有無と、歯の症状との関連を探ったものである。

坪井氏の研究によれば、震災後の避難や失業といった社会的要因、精神的不調やトラウマ反応などの心理的要因を認める人びとは、震災後に歯の痛みが悪化した割合が有意に高かったという。

震災後の社会的・心理的な要因により、痛みをはじめとする歯科疾患の症状が現れやすいことが示された。

歯科領域のケア提供体制の整備を

東日本大震災の直後は、多くの歯科医療従事者が被災地に出向き、ボランティアで支援活動を行った。犠牲者の個人識別だけでなく、避難している人びとの口腔ケアや義歯の管理にも、歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士が大きな貢献をした。

震災後、避難先で歯の痛みを感じている被災者は多い。歯に症状がある時に通える歯科医院がないという環境は不安である。

2016年にも熊本県で震度7を計測する地震があり、大きな被害が出た。今後も各地で地震や津波など自然災害は、我々の予想を超えた規模で起こり得る。

そうしたとき、さまざまな社会的・心理的リスクを抱える被災者に対して、歯科領域のケアを提供する体制を整備することが、いま求められているのではないだろうか。

今回の研究を行った坪井氏らは、「今後は男女別や年代別などの因子で層別し、さらに詳細に検討していきたい」と語った。

参考文献

  1. 『東日本大震災後の心理社会的要因と歯の痛み悪化との関連:福島県民健康調査』坪井綾香, 江口依里, 伊藤達男, 長岡憲次郎, 大平哲也, 荻野景規, 日本公衆衛生雑誌(第76回日本公衆衛生学会総会抄録集), 2017.

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