人類が誕生してから500万年あまり。500万年前の人類にも、当然歯は生えている。だが、人類におけるう蝕の歴史は、まだまだ浅いと言っても良いだろう。

う蝕が人類を悩ませるようになったのは、およそ1万年前からだ。人類が農耕を始めた時期と合わせて、急激にう蝕は増加している。

農耕とともにう蝕の歴史が始まった

農耕の発明後、人類は米や麦、イモやトウモロコシなどの農作物を作った。いずれも主な成分はデンプンである。

デンプンは人類にとって偉大なエネルギー源であると同時に、う蝕細菌にとって重要な基質となる。

弥生人の8割近くがう蝕有病者、その半数が根面う蝕

稲作をして生活を送っていた弥生人の骨格を調べると、う蝕がわれわれ日本人を悩ませていたことがわかる。

弥生人のう蝕有病者率は78.6%である。多くの砂糖を消費している現代日本人と比べても、実に高い数値だ。

弥生人の多くはう蝕に罹患していたが、その性質は現代人とは異なるものだった。弥生人のう蝕をより細かく調べてみよう。

調査したすべてのう蝕のうち、根面に生じているものが52.2%を占めているのだ。すなわち、弥生人のう蝕は現代人と比べて根面う蝕が多いのである。

根面う蝕が多いのは、歯周病が多かったから?

弥生人の歯周病の罹患状態を調べると、現代人と比べて若い年齢の頃から歯槽骨の吸収が生じていることがわかった。

現代人は加齢していくにつれ歯槽骨の吸収が見られることが多いが、弥生人は若い頃から吸収が起こっている。

なお、弥生人が日常的に摂取していたデンプンが、どのようなメカニズムで歯周病を引き起こすかについては、解明されていないままだ。

弥生人に根面う蝕が多いのは、若い頃から歯周病に罹患していたことと関係があるかもしれない。若い頃から歯槽骨が吸収し、歯根面が露出していたため、根面う蝕にかかりやすかった。

当時の人類は、う蝕を歯周病の継発症として捉えていたかもしれない。

20世紀型のう蝕、21世紀型のう蝕

現代に生きるわれわれがう蝕を語るなら、スクロースは欠かせない。

18世紀の産業革命以降、砂糖の消費量は全世界的に急増し、その曲線と同じようにう蝕も増えていった経緯がある。日本国内でも、砂糖の消費量と小児のう蝕有病者率は相関関係にあることがわかっている。

現代人と弥生人のう蝕の違いは、好発部位である。20世紀型のう蝕として代表されるのは、小窩裂溝う蝕だ。

そして21世紀に入り、若年者のあいだでう蝕は急激に減っている。しかし、高齢者の歯周病が増えたことにより、21世紀型の根面う蝕が増えている

高齢者・根面う蝕

う蝕の歴史は、その時代を生きる人類の生活習慣を如実に表わしている。今後、人類がどのような生活を送り、いかにう蝕と向き合っていくのか。

数万年後の人類が、私たちの骨格を見つけだし、歯に穴が空いていることを不思議に思う日が来るのかもしれない。

参考文献

  • Oyamada J, Manabe Y, Kitagawa Y. et al: Dental morbid condition of hunter-gatherers on Okinawa island during the middle period of the prehistoric shell midden culture and of agriculturalists in northern Kyushu during the Yayoi period. Anthropological Sci 104. 1996.
  • 竹原直道『むし歯の歴史』砂書房, 2001.
  • 厚生労働省『歯科疾患実態調査』2018.