日本の現在の医療費は41.3兆円(平成28年度)で、前年度と比べて減少に転じたものの、相変わらず40兆円を超えている。医療費には、患者の自己負担以外にも健康保険料や税金が投入されていることはご存知の通りで、医療費が日本の財政を圧迫している以上、医療をなるべく効率的に提供することが今日の課題となっている。

そのために、医療の効率性を数値化し、実際の政策に応用するための経済的評価に関する研究が行われている。本記事では、医療の効率性をいかにして評価するか、どのような治療が効率がよいと言えるのか、といったことについて解説していこうと思う。

① 医療の効率性を評価する

医療の効率性を評価するためには、投入と産出の両方を考慮し、費用対効果を算出することが重要である。投入の指標は費用として算出される一方で、産出の指標は延命された期間や健康状態など、それぞれの指標をもって表される。

ここで注意すべきなのは、費用の少ない医療が必ずしも効率のよい医療になるとは限らないということだ。少ない費用で医療を提供できたとしても、その治療の効果が費用に対して低かった場合、それは効率のよい医療であるとは言えない。

② どのように医療の効率性を評価するか?

では、医療の経済評価は、どのように行うべきだろうか。まず、下図をご覧いただきたい。

横軸には治療による効果をとり、縦軸にその治療にかかった費用をとる。基準となる治療Aを中央に置いたとき、少ない費用で大きな効果を産み出せる治療Bは、治療Aよりも効率がよいとされる。このとき、治療Bは治療Aよりも優位(dominant)であるという。逆に、治療Cは費用が治療Aよりも多くかかるにも関わらず効果が少ないことから、治療Cは治療Aよりも劣位(dominated)であるとされる。これが基本的な医療経済評価の考え方だ。

③ 倫理的な問題

しかし、医療の場合に難しいのは、純粋に、ほどほどの効果と費用で手を打とう、とはならない点である。命に関わるような疾患に対する治療の場合、患者は最大の効果を希望するだろう。下図でいう治療Dにマッピングされる場合である。この場合はどうするか。

治療Dは、治療Aよりも多くの費用がかかるが、効果も高い。しかし、費用がかかるからその治療法を選択しないという選択を、実際の患者を前にしてできるわけがない。その時に医師として、どう振る舞うべきか。

1つの考え方として、図の傾きで効率性を評価するという立場がある。下図のように直線の傾きを求めると、それはそれぞれの治療法の1単位の効果を得るための費用を表していることになり、直線の傾きが小さい方が効率的な治療であると考えられる。

この考え方でいうと、費用は高いが効果の大きい治療Dより、基準となっている治療Aの方が、効率がよいことがわかる。

④ 増分費用効果比を考える

先述のように、治療Dを棄却しようとしても、目の前には患者がいる。効率が悪いからといってその治療を選択しないことによって、患者の寿命は短くなるかもしれない。例えばあなたがガンになって、医師からこの図を見せられ「効率が悪いのでこの治療法は選択しません」と説明を受けたらどう思うだろうか。よい気分でないことは疑いようがない。

そのときに役立つ考え方のひとつとして「増分費用効果比(ICER: Incremental Cost Effectiveness Ratio)」がある。増分費用効果比は、下の式で求めることができる。

増分費用効果比(ICER) = 費用 (B) – 費用 (A) / 効果 (B) – 効果 (A)

増分費用効果比は「追加でかかる費用」を「追加で得られる効果」で割った指標で、小さいほどその治療法は効率的であるとされる。先ほどの図では、治療Aと治療Dを結んだ直線の傾きとなる。

しかしここでも、増分費用効果比の値をいかに解釈するか、どの程度の追加でかかる費用まで許容するかという部分に関しては、倫理的な判断が必要となってくるのである。
連載「医療経済学の衝撃」次回は、医療経済学の評価方法について解説を行っていく。