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日本小児学会こどもの生活環境改善委員会は、「Injury Alert」という小児の傷害に関する情報を医療関係者向けに公表している。

小児科医が個別に経験したエピソードを汲み上げ、日本小児学会としてのコメントや防止策を公表しているのだ。発信の目的について、日本小児学会は以下のようにコメントしている。

医療現場では毎日、傷害を受けた子どもたちの診療を行っています。小児科医は、「こんな事故が起こるのか」とびっくりする事例に遭遇していますが、それらは単発で症例報告されることもほとんどありません。

その情報がないため予防策にはつながらず、漫然と同じ傷害が起こっています。重症度が高い傷害を繰り返さないためには、発生状況を詳細に記録することが不可欠です。

掲載されているケースは怪我から死亡事故まで幅広いが、読んでいるこちらも痛くなってくるような事故ばかりだ。今回はブラッシング中の事故を取り上げるが、痛いのが苦手な方は、今すぐブラウザバックすることを推奨したい。

歯磨き中に転倒、歯ブラシが咽頭に突き刺さる

本記事でご紹介するケースは、4歳の男の子。夜の歯磨きの時間だった。

夕食を食べ終わったあと、母親とともに洗面所に移動して歯磨きを開始した。途中、母親がリビングに移動したため、男の子も母親の後を追い、リビングまで付いていった。

高さ50cm程度の1人かけソファの袖の部分に立って歯ブラシをくわえていた男の子は、そのまま床に転倒してしまった。突然の泣き声で母親が振り向くと、歯ブラシを口にくわえたまま、フローリングの床にうつ伏せで倒れて、泣きながら唸る男の子の姿があった。

母親は慌てて男の子の口に突き刺さっている歯ブラシの柄の部分をつかみ、2〜3回引っ張った。後日母親は、この時の感覚について「ひねってはいないが引っかかる感じ上がった」と述懐している。

歯ブラシを口の中から引っ張ったところ、歯ブラシの先端(約3cm)が無くなっており、口腔内には何も残っていなかったという。母親は #7119 に電話をかけ、救急車を要請すべきであると指示され、男の子は救急車で病院へと搬送された。

歯ブラシの先端は無くなっていたが…

救急車で小児科に搬送された男の子は、胸部XP、腹部CTの検査を実施された。ところが、胸部と腹部には異物の残存は確認できず、経過観察で問題ないと診断された。

しかし翌日、男の子の家族は心配して耳鼻科を受診すると、診察にて口蓋垂の左側に発赤を認め、ファイバースコープによって上咽頭の挫創が確認された。

ここで初めて頭部単純CTで頭頸部を検査したところ、毛が付いている歯ブラシの先端のような異物が確認されたため、再度救急車で病院へと搬送された。

幸いにして男の子は意識清明で、気道や呼吸、循環にも異常は認められなかった。全身麻酔下にて歯ブラシの先端の摘出術が行われ、無事摘出されたという。

歯磨き中の事故は意外なほど多い

歯磨き中の転倒などによる咽頭部の刺傷は、毎年何件か散見される。東京消防庁が公表しているデータによれば、2006年から2010年の5年間で5歳以下の乳幼児が歯磨き中の外傷で搬送されたケースは、217件にのぼるという。

確かに、ほとんどの小児が毎日2回歯磨きをしているとすると、リスクは日常生活に潜んでおり、いつでもどこでも起こり得る事故である。

1999年に割り箸が咽頭部に刺さり男児が死亡した事故を覚えている方も多いかと思う。割り箸や鋭利な鉛筆などは保護者も気を付けているが、歯ブラシは柔らかく咽頭部に刺さるイメージも無いため、保護者にとって意外と盲点なようである。

歯ブラシメーカーは事故防止策を

歯ブラシ中の事故は、「歯磨き中は歩き回らせないようにする」「歯ブラシが喉に刺さらないように注意する」だけでは予防することは難しい。

今回の記事で取り上げた母親も、先述の割り箸事件のことを知っており、鋭利なものをくわえさせる際には気を付けていたと語っている。

この事故に対して日本小児歯科学会こどもの生活環境改善委員会は、「歯ブラシ自体の製品を改善すべき」という指摘をしており、国内大手の歯ブラシメーカーも、事故防止のための歯ブラシの開発を進めている。

事故防止のための歯ブラシとは、把持した部分よりも深く口腔内に歯ブラシが侵入することを防ぐリングを装着した製品や、柄の部分の材質を柔らかくした製品などだ。

今後、乳幼児が使用する歯ブラシに関しては業界基準を作成し、予防の工夫がなされているもののみ流通するようにする必要があると、日本小児歯科は述べている。

参考文献

  1. 『Injury Alert(傷害速報)No. 34 歯ブラシによる刺傷』日本小児歯科学会, 日児誌2012年9月号, 2012(URL).

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