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日本小児科学会は「Injury Alert」という小児の傷害に関する情報を医療関係者向けに公表している。個別のケースを臨床医から汲み上げ、同学会が専門的な分析を行っている。

1Dニュースでは以前、転倒により4歳の男児の咽頭部に歯ブラシが突き刺ささった事故 について解説をした。

今回は、女児が水を飲もうと口を付けた蛇口に、乳歯がスッポリと嵌ってしまった事故をご紹介しよう。

珍しい「外傷による乳臼歯脱臼」

1歳9ヶ月の女児が、自宅で母親と入浴をしていた。入浴中、女児は喉が乾いたのか、浴室の水道の蛇口から、直接水を飲もうとした。

その直後、女児の下顎左側第一乳臼歯が水道の蛇口に嵌ってしまった。母親が引き離したところ、乳臼歯は完全脱臼し、蛇口にくっついたままの状態となっていたという。

乳歯の外傷は、ほとんどが上顎前歯部に生じる。乳歯の外傷の多くは転倒によって起こるが、前に倒れた場合は上顎前歯部をぶつけることが多いためだ。

今回ご紹介するケースのように、外傷によって乳臼歯が完全脱臼することは非常に珍しい

本ケースの画像(日児誌2012年4月号 116:807-812)より引用

事故後の経過と処置内容は

事故後、母親はすぐに乳臼歯を牛乳に浸して、近くの歯科医院を受診した。ところが患児の協力が得られず処置困難と判断され、翌朝になって別の歯科医院を受診した。

翌朝に診察をすると、歯槽骨内は血餅で満たされ血は止まっていた。骨折線や他の歯の症状、軟組織の損傷は認めなかった。

脱臼から半日以上が経過していたため、再植は予後不良と判断し、後続永久歯の歯胚への影響も含め経過観察をすることとなった。

乳歯脱臼は6月の日曜日に多い

乳歯の外傷を、統計的に見てみよう。年齢は1〜3歳の男児に多い。6月、9月、10月の活動が活発になる時期に生じやすく、月曜日〜土曜日に比べて日曜日が圧倒的に多い

興味深いのは、受傷時刻だ。全体の70パーセントを16時〜21時の時間帯が占めており、ピークは20時〜21時代であった。夕食や就寝の準備で、家族の目が届きにくい時間帯に集中しているのかもしれない。

原因は「蛇口の構造」

今回の事故の原因となった蛇口は、外径が15mm、内径は6mmであった。内部には可動性のある蛇腹構造があった(下図)。

(日児誌2012年4月号 116:807-812)より引用

女児の第一乳臼歯の外形は7.48mmであり、蛇口の内径よりも大きかった。しかし、頭を傾けて水を飲もうとしたことや、蛇口の蛇腹構造の可動性により内径が広がったことが原因で、女児の乳臼歯はスッポリと嵌ってしまった。

(日児誌2012年4月号 116:807-812)より引用

蛇口の構造が、その時期の乳臼歯の外径にピッタリと合致するサイズになっていたこと、女児の口が届く場所に蛇口が設置されていたことが原因として挙げられる。子どもの歯が嵌入しにくい蛇口の構造やサイズを求める必要があるだろう。

「気を付ける」だけでは防げない

子どもの傷害は、必ず複数件発生するものだ。蛇口による乳臼歯の脱臼も、日本小児学会に4例の報告がされている。そのすべてが入浴中に起きた事故であり、狭い年齢層の範囲に限局している。

日本小児科学会は今回のケースについて「気をつけましょう、と指摘するだけでは予防できない」と指摘したうえで、「2歳未満のこどもがアクセスできる蛇口の構造を改善することが必要」との声明を出している。

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参考文献

  • 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会『Injury Alert(傷害注意速報)No.30 蛇口による乳臼歯の脱臼』日本小児科学会雑誌, 2012.
  • 川野竜太郎, 那須大介, 金子貴広『乳歯脱臼の統計的検討』小児口腔外科, 2007.