歯科界のトップを走るドクターに仕事の極意を学ぶ「一流ドクターの仕事術」。今回は、千葉県浦安市で開業しているITO DENTAL OFFICEの伊藤創平先生にインタビューしました。

伊藤創平(いとう・そうへい)
1975年生まれ。医療法人社団創世会 ITO DENTAL OFFICE理事長、PESCJ歯内療法認定医、石井歯内療法研修会インストラクター。2000年に新潟大学歯学部を卒業後、千葉県内の診療所に勤務後、医療法人社団雄翔会 NAMBA DENTAL OFFICEに4年間勤務。2007年に千葉県にITO DENTAL OFFICEを開業。マイクロスコープを利用した歯内療法を積極的に臨床に取り入れている。

  • 居住地:千葉県浦安市
  • 開業年:2007年
  • ユニット数:6台
  • スタッフ数:16人(うち歯科医師3人/歯科衛生士6人)

祖母の入れ歯がきっかけで歯科医師に

ーー歯科医師になり、開業して現在に至るまでの経緯を教えてください。

僕が歯科医師を志したのは、祖母がずっと義歯で困っていたからです。祖母はうちの医院(千葉県浦安市)の近くに住んでいるんですけど、なかなか良い歯医者にめぐり合うことができず、神田の歯科医院までわざわざ通っていた。そんな祖母のために、地元の新浦安で、信頼できる確かな技術を持った歯科医院を作ってあげたかったという動機が、私のなかで大きかったですね。

そんな思いを持っていたはずでも、歯科医師になってから一度本気でこの仕事を辞めようと思ったことがありました。卒業したての頃、上顎前歯部の自費での補綴症例で、何の疑問も持たずに天然歯を削って、患者さんの審美的要求にこたえました。患者さんは喜んでくれましたし、当時の院長にも褒められましたが、自分のなかに違和感があった。商業誌で見る治療の精度には遠く及ばない治療でお金をいただくことに疑問を感じ始めたんです。「こんなことをするために歯科医師になったのか?」と自問自答しました。

私の好きな言葉に「天網恢恢疎にして漏らさず」という老子の教えがあります。天の網は、広くて網の目が粗いように思うけれど、悪人を網の目から漏らすことはないという教えです。悪事を行えば、必ず捕らえられ、天罰をこうむると説いています。

当時も自分なりに妥協せずに治療に当たっていたのですが、その治療の質がどのレベルにあるのかは自分の心が一番わかってます。同業者の目から見ても恥ずかしくない治療をしたいという気持ちがありましたし、無知が故に患者さんへ迷惑をかけることは歯科医師としての悪事になると、自分を甘やかさないようにしていました。

ーー臨床で「これには自信がある」ということはありますか?

私の場合、歯内療法の問題を解決することには自信があります。もともと、歯内療法という分野は専門的なトレーニング積むことによって、根管治療と外科的歯内療法を組み合わせるとほぼ問題を解決することができる分野です。今日もちょうど、シンガポールから1年前に行った歯根端切除術の経過観察している患者さんが来院するなど、遠方からの患者さんも少なくありません。

診査・診断が最も重要

ーー歯内療法を専門にしているんですね。逆に、大失敗ってありますか?

若いうちから「診査・診断」をきっちりと学んでおけばよかったという反省があります。僕が歯科医師になって2年目の頃、ある患者さんに出会いました。その頃の僕は「とにかく歯髄を残さなければ」という考え方で、その患者さんも歯髄を残そうと僕なりに努力しました。

でもいま考えてみると、そのケースは不可逆性歯髄炎だったので、歯髄を保存しても主訴の痛みは強くなるばかり。結局、その患者さんは転院してしまいました。僕の診査・診断が甘かったから、その患者さんに無理やり苦しい思いをさせてしまった。そう思うと、やはり後悔は残ります。

歯科医師になると、補綴だ、修復だ、審美歯科だと学ばなければならない術式が多くあるなかで、歯内療法における診査・診断は私の中でやや後回しにされていました。今ではどの分野においても診査・診断が一番重要なことだと思っています。

歯科医院の環境づくりにこだわる

ーー患者さんのために院内の環境づくりで気をつけていることは何ですか?

当院では、患者さんのアポの多くは60分単位で取っています。僕がエンド治療する時は90分を1コマで予約を取る。きちんとした治療をしようとすると、必然的にそれくらいの時間を取らないとできないと私は思っています。自分が患者だったら、15分で回されたくありませんからね。そういうシステムも需要があることは理解していますが、自分に合うのは妥協せずに診療が行える時間を確保するシステムでした。

またカウンセリングは重要です。初診時も、治療途中も、メインテナンスに移行する時も、カウンセリングを十分に行うことでそれぞれの患者さんの歯科への想いを聴けるだけでなく、患者さんへの治療法の提示や予防を啓蒙することができる。

また診療中の患者さんへの配慮にも気をつけています。患者さんが歯科医院を怖がる理由は2つあると思っていて、1つは単純に痛いこと。もう1つは、自分が何をされているかわからなくて、治療自体がブラックボックスになってしまっていることです。前者はどうにもできない側面もありますが、後者は解決したい。だからうちでは、マイクロの映像をユニットに置かれているモニターに投影して、患者さんにリアルタイムで見せています。実際に見ていただくことによって信頼関係が作ることができていると実感しています。

ーー医院で働くスタッフに対しては、何かありますか?

スタッフによる運営で動く「委員会活動」には力を入れています。これまではホスピタリティー委員会や5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)委員会などを立ち上げました。そういった活動では、スタッフ達に最大の裁量権を与えるように意識しています。スタッフが出してくれた提案に対して、僕はほとんどNOと言いません。なぜなら、スタッフ達も自分なりに必死に考えて提案してくれていると思うからです。

あと、人事評価を半年ごとに行っています。スタッフの自己評価と我々サイドの評価のギャップを話し合い、自分で半年間の目標を定性的・定量的の両者で決めてもらっています。それを当院のアクションプランシートに書き込んでもらい、他のスタッフからも何を頑張ろうとしているのかを見えるよう、ロッカーに貼って共有しています。

マイクロスコープへの愛と情熱

ーー「これがなければ仕事にならない」という機材はありますか?

マイクロスコープです。もう手放せないですね(笑)。当院はユニットが6台あるのですが、そのうち4台にマイクロを常備しています。

ドイツの老舗顕微鏡メーカーであるカール・ツァイスのプロエルゴというマイクロを使っています。勤務医時代から拡大装置はずっとカール・ツァイス社を愛用してます。

ーーその他に、院内で使っているシステムを教えてください。

カルテやレセコン、予約管理系のシステムはそれぞれデータで管理しています。また月単位で新患数(紹介あり・なし)、キャンセル率や売上げなどの数字を共有しています。

あと、院内では明るいBGMを流すようにしています。夏にはハワイアンな曲が流れ、クリスマスシーズンにはクリスマス・ソングを流します。明るいBGMを季節ごとに使い分けて、患者さんだけでなくスタッフに対しても気持ちの良い空間づくりは考えています。