現代日本には、不機嫌が蔓延している。そう語るのは、明治大学教授で『声に出して読みたい日本語』などの著書でもおなじみの斎藤孝氏だ。

確かに、職場や電車、SNSには、無意味で行き場のない不機嫌が溢れている。不機嫌は、社会を淀ませ、組織のパフォーマンスをガクッと低下させる。不機嫌で物事が改善することなんてない。不機嫌は罪だ。不機嫌を解消して上機嫌でいることは、もはや社会人としての職務なのである。

今回の記事では、歯科業界でも明日から使える「上機嫌のコツ」をご紹介する。不機嫌は「ワザ」を覚えれば誰でも改善できる。そのテクニックを、かいつまんで解説していこう。

加齢臭ならぬ「不機嫌臭」

「いつも不機嫌な人」と言われたら、中高年の男性が思い浮かばないだろうか。「なんだか不機嫌に見える人」は、中高年の男性に多いと著者は言う。実際に不機嫌でなくても、頭のなかでネガティブな感情を持っていなくても、なぜだか不機嫌に見える。加齢臭ならぬ、不機嫌臭が出てしまっているのだ。

まずは、自分の不機嫌に自覚的になることが重要である。40歳を過ぎたら、普通にしているだけで不機嫌に見えてしまう。上機嫌でいるくらいでちょうどいい

たまに、自分を賢く見せようとして、仏頂面をしたり、あえて辛辣な意見を言う人がいる。この認識は間違いだ。機嫌は、知性とは相反するものに思われがちだが、気分をコントロールすることは立派な知的能力のひとつだ。

叱る時こそユーモアを織り交ぜる

ひたすら不機嫌に説教しても、説教された相手は萎縮するだけである。叱る側の真意は伝わることなく、両者の関係性だけがギクシャクして終わりだ。説教は、いまや時代遅れである。

もちろん、叱ることが必要な場合もある。そういうときは、説教にジョークを織り交ぜることが大事である。不機嫌を避ける上でも、ジョークは大きな味方となる。ジョークを言えるということは、「事態を客観的に把握し、自分をコントロールできている」ということを、相手に示すことに他ならない。

職場には「心理的安全性」が必要

上機嫌でいることは、働きやすい職場を作ることにもつながる。上機嫌な職場は、居心地が良い。働く人がみな上機嫌になれば、離職率も低くなり、仕事の生産性も上がる。

Googleが2012年に調査した、職場の生産性に関するレポートがある。生産性の高い職場のために最も重要な要素は「心理的安全性」だそうである。つまり、上司から理不尽に説教されたり、同僚から辛辣に批判されたりする不安のない「心理的安全性」の高い職場は、生産性が高い

上機嫌な職場は、それだけで大きな魅力だ。そのような職場にするためには、手始めに院内や医局に植物を置いてみたり、アロマを焚いてみたり、昼休みにみんなでおやつを食べたり、といった工夫をしてみてはどうだろうか。

不機嫌は誰にだって治せる

環境や心がけを変えれば、不機嫌も変わる。生まれながらにして不機嫌な人などいない。不機嫌は、性格ではなく状態なのだ。心がければ、誰にだって不機嫌を治すことができる。不機嫌と上機嫌のあいだには、4つのフェーズがある。①すごく不機嫌、②ゆるく不機嫌、③おだやかな上機嫌、④すごく上機嫌、の4段階だ。

自分の不機嫌を治したい人は、まず「③おだやかな上機嫌」を目指すべきである。おだやかな上機嫌は、以下の4つの要素から成り立つ。

  1. 自己を客観的に見つめ、コントロールできる
  2. 他人を気遣い、場の空気を読む余裕がある
  3. 身体がしなやかで、オープンな雰囲気がある
  4. 心が内にこもらず、自分を笑い飛ばす器量がある

この4つの要素があれば、おだやかな上機嫌と言える。つまり「感じが良い人」になれば良いのだ。心も身体も、他者に対して開く「オープンマインド・オープンボディ」の体勢が、とても大事なのである。

「一定の状態を保つ」という職業倫理

「おだやかな上機嫌」を保つためには、自分を常に「一定の状態」に置いておく意識が重要だ。一定の状態を保ち、常に安定したパフォーマンスを出せる人こそ、プロフェッショナルである。

一定の状態を保つためには、自分だけのルーティンワークやスイッチを作ることが必要となる。例えば、2015年のラグビーW杯で日本代表の躍進を支えた五郎丸歩選手も、独自のルーティンワークで一定以上のパフォーマンスを発揮した。

また、元棋士で現在はテレビで活躍し「ひふみん」の愛称で親しまれている加藤一二三氏は、対局中は必ずうなぎを注文することで、精神の状態を安定させていた。

プロフェッショナルには、誰にでも一定のパフォーマンスを維持するためのルーティンワークがあるのだ。自分なりの上機嫌スイッチを見つけ、習慣にすることが、常に上機嫌でいることの秘訣である。

不機嫌を治すための習慣

著者は本書の最後で、「不機嫌を治すための7つの習慣」として、以下のような心がけをまとめている。

  1. 自分の「普通」は不機嫌に見えると自覚する
  2. 情報を遮断して自分の時間を持つ
  3. 血流を意識して、こまめに身体をほぐす
  4. 「一定の状態」を保つのがプロだと意識する
  5. 「まずいな」と思ったら一呼吸入れる
  6. ネガティブな感情は、表現物(音楽、映画など)に乗せて洗い流す
  7. 人の不機嫌を見て、自分の不機嫌をなおせ

職場で不機嫌さを出すことは、罪である。上機嫌でいることは、上司としての職務だ。上司であるあなたが上機嫌になれば、周りも上機嫌に変わっていく。職場の不機嫌を排除し、上機嫌が漂う職場になれば、きっと良いサイクルが回り始める。

人手不足で、他の業界と比べて離職率も高い歯科業界では、今こそ「上機嫌でいること」が求められているのではないだろうか。