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世界にその名を知られる歯科技工士、桑田正博。歯科技工士が国家資格化された年に技工士免許を取得し、日本の歯科技工界を牽引してきた。

金属焼付ポーセレン(PFM)の開発・実用化をはじめ、現代歯科医療において当たり前となっている基礎を作り出してきた功績は、世界各国で高く評価されている。

これまでの挫折と挑戦の半生を覗いてみると、これからの歯科医療のあるべき姿が浮かび上がってきた。

桑田正博(くわた・まさひろ)1936年生まれ。愛歯技工専門学校を卒業後、国家資格化された1957年に歯科技工士免許を取得。1962年に渡米し、金属焼付ポーセレン(PFM)の開発に携わる。帰国後はクワタカレッジを設立し、現在も後進の育成に尽力している。

桑田正博の今を作った「原点」

ーー突然ですが、先生の人生で挫折はありますか。

思い返してみれば、アメリカで仕事をしていた時に、今の私につながる大きな転機があったように思います。

学校での成績も常にトップで、手先も器用だった私は、当時天狗になっていた部分がありました。技工物をアメリカの歯科医師に見せても、「うまい」「天然歯そっくりだ」と言われていました。

ある日、グループファンクションド・オクルージョンの提唱者であるスカイラー先生(Dr. Clyde H. Schuyler)を訪ねました。

私は自分で作ったポーセレンのフルマウスのサンプルを持っていきました。それは中高年の天然歯を模倣したもので、とても精巧に作ってあった。摩耗している部分は摩耗しているように作り、ヤニの汚れも再現していました。

ところが、スカイラー先生はサンプルを見て「かわいそうだ」と一言。そしてこう続けました。「これは口腔内に入れるために作られていない。これだけ器用で、多くの時間を費やしているのに、何が大事かわかっていない。”かわいそうだ” としか言いようがない」と。

多くの人に認められた彫刻が、最高の先生には「かわいそうだ」と一蹴された。当時は非常にショックで、もう駄目だと打ちひしがれました

ーーどのように立ち直ったんですか。

かわいそうだと言われないことをやってやろう、と思いました。それまで「天然歯に見える」ことを目標にしていましたが、それでは意味がないことに気が付いた。

スカイラー先生の言葉で、彫刻に対する考え方が全く変わりましたね。「天然歯に見える」というのは職業人の勝手で、歯科医療の本質ではない。歯科医療は「技」ではなく、人間の健康を目的にするべきであると。

目指すのは「一人間単位の健康」

ーー歯科医療者同士の会話は「技」に終始しがちです。

歯科医療はそもそも、技から始まった経緯があります。Dentistという名称は、Pianistと同じように技や術を目的としている。もちろん技は欠かせませんし、手段として正しくなければならない。でもそれは、目的ではないんです。

「一人間単位の医療」を目指さなければなりません。いま、歯科だけが医療と別に置かれ、取り残されてしまっている。一人間単位の医療の体系のなかに、健康の要である歯科医療も組み込むべきです。

歯科医療界のエゴややっかみで、足の引っ張り合いをしている場合ではありません。様々な垣根を超えて語り合い、思いのコンセンサスを形成していくムードを作っていくべきです。

ーー技を極めたからこそ見える景色かもしれません。

技は手段ですが、それを徹底的に追求していくと見えてくるものがあります。それは哲学・フィロソフィーです。何事も徹底して突き詰めれば、「何のために?」という哲学の部分通じていく。

歯科医療の在り方を哲学する

ーー先生の哲学は何ですか。

歯科の道を通じて、人類の健康福祉に寄与する」ことです。歯科技工士、歯科医師、歯科衛生士と得意分野はあるけれど、患者さんから見たら一体です。歯科医療に自分を救ってもらいたいわけです。

自分の分野のことだけを考えるのではなく、人類の健康福祉のことを考え、真っ白な紙に医療の体系を描いていくことが必要です。

歯科医療は、あるべき姿を求める時ではないでしょうか。「これからの歯科を考える」ことに、私は今後も集中していきたいと思っています。

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