ベストセラー『生産性:マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの』は、歯科医院の経営者にとっても一読の価値がある本だ。

著者であるキャリア形成コンサルタント、元マッキンゼーの採用マネージャーである伊賀泰代氏は、あらゆる業界で最も重視されるべきは「生産性」であると主張する。生産性はイノベーションの源泉であり、組織をマネジメントするうえでのカギだ。

本連載「歯科医院における生産性」では、全5回にわたり、歯科医院という特殊な組織の改革やマネジメントにおいて「生産性」の概念をいかに活用できるかについて考えていく。

日米の明暗分ける「2つの違い」

伊賀泰代氏によれば、日本と米国の組織を比較したとき、2つの決定的な違いがあるという。それは、「リーダーシップ」と「生産性」だ。

日本と米国で、勤勉さや規律性の高さ、分析力や論理的思考力、クリエイティビティに至るまで、共に差はなくハイレベルであるという。しかし、リーダーシップと生産性が、両者の明暗を分けている。

その2つの重要性を理解し、組織のマネジメントに取り込むことができれば、日本の組織は今より高い地点に到達できるはずなのである。

リーダーシップは誰でも身につく

まず、日米の決定的な違いとして、リーダーシップに対する意識の差がある。日本でリーダーシップというと「リーダーになる素質のある者だけに必要な特別な能力」と錯覚されがちだが、米国では「新入社員を含めた全員が持つべきスキルであり、そのスキルは学び、訓練することで誰でも身につく」と教えられている。

リーダーシップに関するこの意識の違いは、日本と米国での組織におけるリーダーの数と質に圧倒的な格差を生み出し、ひいては組織全体のパフォーマンスに影響を与えている。

日本の多くの組織のように、リーダーシップの総量を増やさず、たまたま現れたカリスマ的リーダーに依存していては、組織が大きくなればなるほど成果を出しにくい組織になってしまう。

「生産性」の意識

リーダーシップに加えて、日本と米国の間でその差が顕著なのは「生産性」に対する意識だ。

ここでいう生産性は、単に「頭が良い」「仕事が速い」という話ではない。消化すべきタスクの優先順位を明確にすることや、ムダな会議やコミュニケーションコストを削ぎ落とすことなど、「生産性に対する意識」の部分だ。米国の組織では、少しでも生産性を高めようとする意志を感じることが多い。

歯科業界でも、多くの医院で形骸化したミーティングが行われている。また、上司が帰らないと自分も帰れないといった雰囲気がある医院も多いと聞く。早くから生産性の高いミーティングや勤務形態を導入した歯科医院と、生産性を高める意識の少ない歯科医院では、知らず知らずのうちに差が開いているのかもしれない。

日本で「生産性」というと、特に産業界において、工場などのオペレーションの効率化の話だと解釈されてしまう。確かに、日本の工場は極めて生産性が高く、長らく他国の産業を圧倒してきた。しかし、歯科医院を含むサービス業やホワイトカラーの生産性は、無視されてきた現実があった。

生産性とは、コスト削減ではない。生産性を向上することにより、組織全体の付加価値を上げることができる。時間短縮でその分のコストが浮くのではなく、組織全体の生産性が向上することで、理論上は上限なく組織が成長できるのである。

生産性をめぐる誤解

生産性について回る「生産性を上げるとクリエイティビティが損なわれる」「生産性の高い組織はギスギスしている」という意見は、誤解である。

急速に成長するイノベーティブな組織は、他の組織よりも遥かに生産性を重要視している。日本では生産性の意識が根付いていない組織が多く、これが成長の大きな足かせになっている、と著者は指摘している。

「競争に勝つためには、より長く働く必要がある」という思い込みから、脱却した方が良いのかもしれない。そうした労働投入型の発想では、経営者も、そこで働くスタッフも疲弊してしまう。

新しい仕組みや技術、知見を積極的に取り入れ、生産性をどんどん上げることに貪欲になるべきである。こうした提言を、本書『生産性:マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの』では解説している。次回から、さらに生産性について掘り下げていく。