羊肉はうまい。少し生臭いと言われることもあるが、もはや肉料理における地位は確立されている。

日本に初めて羊肉が持ち込まれたのは西暦599年だが、その後はまったく食習慣として定着しなかった。それ以降、ぱったりと羊肉の記録は絶たれ、日本で羊肉の消費が急増したのは、第二次世界大戦が終わった後のことである。

世界で最も食されている肉

日本ではたまたま根付かなかっただけで、世界的に見たら、羊肉は最もよく食されている肉だ。羊肉は「ラム」と「マトン」に大別され、ラムはマトンよりも柔らかく、生臭い獣臭も少ない。だから、マトンよりラムの方が高価だ。

ざっくり言うと、ラムは子どもの羊の肉で、マトンは大人になった羊の肉だ。ラムとマトンの中間には「ホゲット」という等級がある。だが、厳密な定義は国ごとに異なるらしい。

ラムとマトンの違いは「歯」

大人の羊は、ヒトと同様に32本の歯を持っている。人間でいう前歯に相当する「門歯」は、下顎に8本生えてくる。上顎に門歯は萌出せず、とんでもなく硬い歯肉があるだけだ。門歯から少し隙間が空いて、奥に臼歯が生えている。

ラムとマトンの違いは、この門歯の本数だ。萌出している門歯の本数で、羊肉としての等級が変わってくる。羊の門歯は4歳になるまで、年に2本ずつ萌出してくる。

マトンは2本以上の門歯が生えている

羊の門歯は、年に2本のペースで萌出してくるため、生後1年で2本になる。ニュージーランドにおける羊肉の等級の定義によると、ラムは永久歯の生えていない羊の肉のことだ。一方でマトンは、永久歯が2本以上生えている羊の肉。そのあいだのホゲットは、1本だけ永久歯が萌出している羊の肉のことをいう。

羊の門歯が、1年に2本ずつ萌出してくるという仕組みは、ヒトの歯の交換や萌出の仕組みと比べると、実にシンプルな仕組みではないだろうか。だから、羊の年齢を推定するときには、歯が便利なのである。

動物の歯の交換

動物の歯の交換は、その種ごとに独自性があり、なかなかおもしろい。例えば、象の歯は合計4本だが、生涯に6回生え変わる。象は草食動物だが、歯が咬耗するタイミングで交換する。ちなみに、1本5kgくらいの重さがある臼歯もあるらしい。

サメの歯にいたっては、生涯で2万回も生え変わる。2〜3日ごとに歯が交換し、歯を鋭く保つサメの種もいる。サメの歯には歯槽骨や歯根膜がないため、こんな短いスパンでの交換が可能なのだ。これは進化の過程で、ウロコの一部が発達して歯になったという経緯があるためである。

歯は年齢の推定に有効

われわれ歯科医療従事者は、子どもの年齢を推測したい時に、歯の萌出状態をヒントにしているはずだ。例えば、この子どもはアグリー・ダックリング・ステージだから、7〜8歳くらいか、という風に。

歯の萌出状態から子どもの年齢を推定するよりも、羊の歯から羊の年齢を推定する方が、シンプルで簡単である。歯科医院の同僚やスタッフと羊肉を食べに行ったときには、ぜひこの話題を挙げて、知識をひけらかしてみてはいかがだろうか。