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2017年5月9日、午前中のことだ。患者が行き交う東京医科歯科大学歯学部附属病院は、1人の青年の手によって一時騒然となった。

爽やかで勉強もできる好青年、のはずだった。彼は、医師を装い病院内に侵入し、白衣の下に忍ばせた刃物で、男性歯科医師の首や腹を刺した。

5月の静かで平和な陽気には似合わない怒号が病院内に響き、刺された歯科医師の血液が周囲に飛び散った。

「浮気」がもつれ凶行に

駆けつけた警察に現行犯逮捕されたのは、日本医科大学医学部の4年生、渡邊祐介容疑者(当時30)。彼を知る同大学関係者は「とても良い人だったので、未だに事件が信じられない」と話す。

彼には、交際して4年になる彼女、T(当時30)がいた。Tは医科歯科大に勤務する歯科医師だった。2人は既に婚約しており、文京区内のマンションで同棲生活を送っていた。

幸せな同棲生活の幕が閉じたのは、事件の2日前、5月7日のことだった。渡邉被告が帰宅すると、Tの様子がいつもと違う。日刊ゲンダイには、当時の状況について、以下のような記述がある。

渡辺被告が5月7日に帰宅すると、Tの顔は紅潮し、明らかに動揺していた。寝室に入ると、掛け布団がめくれ、ベッドにはティッシュの固まりが……精液のニオイがした。Tの下着も散らばっていた。(一部改変)

その場にはTの浮気相手の男性はいなかったが、渡邉被告には心当たりがあった。Tから「職場の上司」として紹介されていたN(当時41)だ。

以前にも、彼女のInstagramアカウントにNと仲良く写っている写真があり、それが原因で口論になったことがあった。

渡邉被告の「思い込み」

TとNは東京医科歯科大で上司と部下という関係だった。起訴状によると、渡邉被告は「Nが上司という立場を乱用し、自分の婚約相手であるTに無理やりセックスを迫った」と思い込んでしまったのだという。

その勘違いから、渡邉被告は復讐を決意し、NとTが勤務する病院に、凶器を持って足を踏み入れたのである。

3月2日に行われた初公判で渡邉被告は「心から反省している。申し訳ない気持ちでいっぱい」と供述し、「殺意はなかった」と起訴内容の一部を否認した。

周到な用意、計画的な犯行

5月7日の夜にTの浮気が発覚してから、2日も経たずに事件は起きた。その間、およそ36時間。渡邉被告にとっては長い時間だったに違いない。どうすればNを苦しめることができるか考えたのだろう。

彼は事件当日、牛刀とペティナイフ、包丁という3つの凶器を持っていた。そして、病院内で歩き回っていても怪しまれないよう、白衣も持参していた。

事件現場となった歯学部附属病院の6階に到着すると、彼はトイレで白衣に着替えた。そして、持っていたバックから牛刀とペティナイフを取り出し、白衣の下に隠し持った。事件後、6階のトイレからは包丁の入ったショルダーバックが見つかっている。

白衣を着て、Nのいる診療室まで向かうと、牛刀とペティナイフを両手に持ち、怒声を上げながら、Nの首や腹を刺した。

凶器を周到に用意し、段取りも決め、白衣を着てNに近付いたこと、渡邉被告にとって初めての場所だったはずの医科歯科大の歯学部附属病院で、トイレから迷わずNのいるユニットに向かったことなどから、計画的な犯行だったことは容易に推測される。

大きすぎる凶行の代償

計画的な犯行とはいえ、浮気発覚から冷静に犯行のプランを練っていたとも思えない。復讐の代償は、あまりにも大きい。夢見た医師としての将来、Tとの結婚生活、そのすべてを投げ打ってまで、渡邉被告はNを刺すという凶行に出た。

渡邉被告の供述を信じるならば、「NがTに無理やり迫った」という勘違いから生じた事件だ。冷静にはいられなかったのかもしれない。

事件翌日から、この事件はマスメディアを賑わせた。東京医科歯科大学という日本の医療をリードする大学で歯科医師が刺されたこと、刺した犯人が医学部生だったこと、さらに事件の原因が女性歯科医師の浮気であったことなど、注目の集まりやすい格好の話題だった。

渡邉被告の個人的な恨みが、世間に与えた影響は大きい。法的な処罰が下る日まで、この事件について注目していきたい。

参考文献

  1. 『歯科医刺傷事件は女性の二股で起きた勘違いの惨劇だった(URL)』2018年3月4日, 日刊ゲンダイ

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