(前回「生き残る歯医者、消える歯医者 〜3分でわかる歯科医院経営論 #5」の続き)

スタッフは「自分の給料」しか考えていない

前回までにしたような、財務の話、経営数字の話を、院長がしっかり考えていただくのがもちろん大切なのですが、それができてくると今度は、これをスタッフとも共有したい、とも思われると思います。

売上を上げるのも、粗利を増やすのも、利益を残すのも、実際には院長一人ではできないからです。そうわかってはいても、「大事なのはわかるけど、なかなか勉強する時間が取れない」 「まして、スタッフに教育するなんてことはできない」 とおっしゃる先生は多いかと思います。

私が最初にスタッフの勉強会で携わらせていただいたクリニックの院長もそうでした。 元々、院長の経営数字の理解のサポートをさせていただけたらと思ってご提案したのが、院内のお金の流れを簡単な図を使って把握し一緒に考えていく、というものでした。

それを院長にお話したところ 「これは大変わかりやすいので私も勉強させてほしいが、その前にスタッフに院内のお金の流れの話をしていただけないでしょうか」 と言われたのです。 その時の私には、想定外のお言葉だったのですが、その後院長とお話をしてなるほどと思いました。

前回もお話した通り、お困りの原因となっていたスタッフは「自分のお給料のこと」しか考えていなかったのです。 その院長の言葉がきっかけで、私は歯科クリニックを含めた中小企業で勉強会をさせていただくようになりました。

そのクリニックを始め、某携帯ショップ、個人経営のイタリアンレストラン、エンターテイメント系IT企業、WEB制作会社、結婚相談所等、どの企業においても、スタッフに向けてクリニックまたは会社のお金の流れを、図を使ってお話すると、まずスタッフが思うのは、「経営するって大変なのだな」ということのようです。

人件費は大きな固定費の一部ですので、固定費として毎月決まった額をいただいている側のスタッフは、それを払っている側の気持ちは普段なかなか考えないものです。 まして、自分の仕事、働きがどのように給料に反映しているのか、自分の給料はどこから来るのか、ということを考えて仕事をするスタッフもほとんどいないのが現状ではないでしょうか。

もちろん院長としては、クリニックを経営する側の苦労、大変さがあります。それをそのままスタッフに伝えないまでも、やはりある程度理解した上で仕事をしてもらえたら、と思っている院長は多くいらっしゃいます。

とはいえ、院長としては伝え方を間違うと、 「もっと働けということか」 「院長は金の亡者なのか」 と思われてしまうのではないか、という心配もあると思います。

それを院長に代わって、外部の人間の話す一般的な話としてスタッフに伝え、しかし人ごとではなく、それによって自分の毎日の仕事の仕方について考える、意識を変えるきっかけを作る、というお手伝いをしていたわけです。

スタッフ、患者さんに明るい未来を語るべき

それを院長自身が、例えとしての定数ではなく、実際のクリニックの経営数字をオープンにしてスタッフに院内のお金の流れを伝えてチームマネジメントしていくというのは、ある意味では勇気の要ることかもしれません。

しかしながら本来は、院長自身が経営数字を理解されて、ご自分の言葉でスタッフに伝え、理念、ビジョンといったものと一緒に繰り返しチームに語りかけていくことが大切なのではないかと思っています。

ただ、最初は、実数ではない方が、スタッフのためにもご自分の説明のしやすさの点でも良いと思います。

まずはクリニックのお金の流れの全体像を伝え、自分たちが今どのステージにいるのかを示し、これから自分たちが目指しているステージを示す。これにはやはり、院長ご本人の声が大切です。そしてもちろん、クリニック、スタッフ、患者様全員の明るい未来を語っていく。

そうしていくことで、「お金の話」が単に「お金の話」ではなく、全員の幸せのために大切なこと、一人一人が考えるべきこと、として認識されていくと思います。

「給料の3倍稼げ」が正しい理由

給料の3倍稼げ」という言葉をご存知でしょうか。 私は公務員でしたので、社会人になってもその言葉を聞いたことはなかったのですが、一般企業ではよく言われていたようです。

もちろんこれは単なる精神論ではなく、きちんとした根拠があります。 会社というのは、社員が受けとる報酬の他に、社会保険を負担したり、採用にかかる費用や退職金などの人件費、福利厚生費なども負担したりしています。 人件費と同等近くの、家賃に代表される「その他の固定費」もかかります。

当然、利益も必要です。 図を描くとすぐわかるのですが、つまり、「人件費」と「その他の固定費」と「利益」の合計が「粗利」ですので、大雑把に言って「給料の3倍(粗利を)稼ぐ」必要があるということなのです。

ただ先ほども言ったように、多くの従業員、スタッフは、自分のお給料の「額」もっというと「手取り額」だけは気にしていていますが、自分はその額をいただくにふさわしい仕事をしただろうか、今月も貢献できただろうか、と考えて受けとることはほとんどの場合ありません。

それは当然のことなのですが、もしスタッフ全員がそれを一段階高いところから俯瞰してみることができ、そこに意識を向けて仕事をしていくことができたら、自ずとクリニックの粗利、売上は増え、スタッフ一人一人の収入アップにも繋がっていくと考えています。

では、意識を向けて仕事をする、といった時に、どうしたら良いのでしょうか。例えば1スタッフが、クリニックの家賃を抑える施策を考えるというのは難しいでしょう。一番簡単に思いつくのは、いわゆる変動費である経費を抑えることです。

例えば単価の安い外注先を提案する、ができればそれも十分いいですが、多くの場合は、電気をこまめに消す、とか、ペーパー類を無駄遣いしない、ということになりがちです。 もちろんそういった意識も大切ですが、残念ながら、それらの節約を実施しても、変動費はあまり変わりません。

私個人的な意見になりますが、粗利を増やす努力をする方が効果が高いと思います。スタッフができることとして具体的には、単価の高いものを売れる力をつける、ということです。 自費診療や、院内での物販、保険診療から自費診療への転換を勧める、というようなことでしょうか。

コミュニケーションを改善すれば売上は上がっていく

その時に必要なのが「営業力」つまり「コミュニケーション力」ではないかと思っています。

サラリーをもらってお仕事している人の多くは、「営業マン」として配属されていない限り、自分は営業マンではない、と当然ながら思っています。 「営業」という言葉はただでさえ敬遠されがちです。 ですが私は、営業力は全ての人に必要なスキルであると考えています。

営業力、というと難しく聞こえますが、 「営業=コミュニケーション」と言った時に否定する方はあまりいないと思います。 そして「コミュニケーションの不要な人はいない」ということにも、頷いて頂けると思います。 なので、全ての人に必要なスキル、と考えるのです。

スタッフの皆さんの、売る力という意味での営業力とコミュニケーションという意味での営業力が高まれば、それは粗利の増加、売上の増加につながっていくと考えています。 院内のコミュニケーション、患者様とのコミュニケーションが良くなっていけば、「売る力」がそれほどなくても売上が上がる可能性はあります。

「売る力」というと、強く聞こえてしまいますが、実はコツとポイントをつかめば、どんな方にも難しいことではないと思います。 受付のスタッフから、衛生士、技工士まで、全員がそこにも意識とスキルを持って仕事するのとしないのとでは、違いが出てくるのではないでしょうか。

ただ、一番のトップセールスマンはやはり院長ですので、営業、コミュニケーションに関しても、院長自らが率先して示していただけたらと思います。

しかし何しろお忙しい院長ですので、アウトソーシングできるところは上手に使いながら、クリニックの未来のために、健康に留意してお仕事をしていただけたらと思っています。

伸びていく医院になるために、今回の6回の内容が、少しでもお役に立ちましたら幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。